大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和41年(ワ)2511号 判決 1968年11月14日

原告 東都産業株式会社

右訴訟代理人弁護士 野口恵三

同 山口郁雄

被告 株式会社大末組

右訴訟代理人弁護士 名波倉四郎

主文

一、被告は原告に対し、金一一五万九、九二〇円およびこれに対する昭和四〇年七月六日以降支払いすみまで年六分の割合による金員を支払え。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

三、この判決は、原告において金二〇万円の担保を供するときは、仮りに執行することができる。

事実

<全部省略>

理由

(一)、被告が土木建築工事の請負を業とする会社であることは、当事者間に争いがなく、原告が石材、砂利などの土木建築資材の販売を業とする会社であることは、<証拠>により明らかである。

(二)、買主が被告であるか、それとも訴外萬甲建設こと石山政夫であるかは、暫らく措き、<証拠>によると、原告主張の通り、原告が昭和四〇年三月から同年六月までの間に被告か萬甲建設かそのいずれかに対し砕石などの土木工事資材金一一五万九九二〇円を被告の竹の塚団地の工事現場に搬入して売渡した事実が認められる。

そこで右売買の買主が被告であるか、それとも訴外萬甲建設こと石山政夫であるかを調べる。次項で述べる通り、原告は買主が被告であると信じていたこと、これについては石山政夫や被告の土木課長八木史郎や現場主任中村和郎やその部下の言動が大いにその原因をなしていることが認められるけれども、一方<証拠>によると、被告は住宅公団より竹の塚団地の建築工事及び土木工事を請負ったがそのうち土木工事はこれを全部訴外萬甲建設こと石山政夫に、工事材料は同人負担の約で下請けさせ、中村和郎ら被告の現場主任がこれに使用される工事材料の適否や工事内容を検査監督していたこと原告の搬入した資材は石の土木工事に用いるためのものであって、専ら石山政夫において原告に対し電話で納入の指示をしていたこと、被告の会社内部においてはこれら資材購入の手続はとられておらず、経理上その記帳もなされていないことが認められるので、買主が被告であると断定するには証拠が充分でなく、寧ろ買主は訴外萬甲建設こと石山政夫であって、ただ関係者の言動により、原告は買主を被告と誤認していたと認められるが相当である。よって原被告間の売買であるという原告の主張は採用できない。

(三)、次に原告主張の名義貸しないし表見代理の点について調べる。

<証拠>によると、次の事実を認めることができる。

(イ)  原告の専務湯川金次郎は昭和四〇年三月頃知人の 正 より、被告の竹の塚団地の工事現場に中村和郎という男がいるから、同人に会って注文をとってはどうか、と勧められ、被告の竹の塚団地の工事現場を尋ね、「大末組竹の塚団地現場事務所」という看板の出ている建物内で、被告の現場主任中村和郎に会って、納入資材の見積りをさせてくれるよう頼んだ。その席には、前記の通り被告より土木工事の下請けをしている石山政夫もいて、湯川、中村、石山の三人の間で資材の規格の話が出、見積書を提出するよう言われたので、湯川は早速大末組宛の見積書(甲第二号証はその控である)を前記現場事務所に持参し、中村和郎及び石山政夫との間で単価の折衝をし、代金の支払については現金と手形とで半金宛支払う旨の返答を得た。この間湯川は石山政夫とも名刺交換をし、石山の名刺には肩書として萬甲建設の記載があるのみで、大末組の記載はなかったが、これら折衝の間において買主は萬甲建設である旨の話がでたことはなく、また被告宛の見積書に対してもこれを萬甲建設宛に訂正するようにとの申出もないなど前後の事情から湯川専務は萬甲建設は労務を提供するもので、資材の買主は被告であると考えていた。

(ロ)  その後大末組工事現場事務所より電話で原告に対し見積り材料の検査がパスした旨の通知があって、取引が開始されたが、個々の納入については、その都度右の事務所より電話で「大末組竹の塚団地だが、明日何を何台持ってくるよう」にとの連絡があり、これに基いて原告は貨物自動車で注文の材料を納入していた。

(ハ)  納入に当っては、原告において車輛毎に納品受領書を用意し、これに予め品名規格、車輛番号、年月日を記し、更に荷受人大末粗と記入して、これを物件引渡の際荷受人に渡し、荷受人において検収の上右の納品受領書に受領数量及び受領場所を記入し、捺印またはサインをして原告側に交付することになっていた。このようにして一一九台分以上の資材が二ケ月余にわたって納入されたが、そのうち少くとも三一台分の納入については被告の従業員である伊藤信孝、崎田茂、末沢某が検収し、納品受領書の荷受人欄の「大末組」と記入されている部分にサインしてこれを原告に交付し、一度もその訂正方を求めた事実がなかった。爾余の八八台の納入分については萬甲建設の従業員が検収したが、これまた納品受領書の荷受人欄の「大末組」という記載について訂正を求めることなく放置していた。殊に石山政夫は昭和四〇年三月二九日荒目砂六・五立方米の検収に当り、受領場所欄に「竹の塚(大末組)」と記入し(甲第五号証の二)、注文者が大末組であるようなことを積極的に示した。

(ニ)  昭和四〇年四月二五日頃原告より前記大末組竹の塚工事現場事務所において被告の土木課長八木史郎に対し請求書が提出され、これには「株式会社大末組竹の塚現場御中」と記されているのに対し、八木史郎はその誤りを指摘しなかったし当時何人も原告に対しその誤りであることを指摘しなかった。

(ホ)  被告は住宅公団より竹の塚住宅団地の建築及び土木工事を請負ったが、そのうち土木工事を萬甲建設こと石山政夫に下請させ、被告の現場主任中村和郎らが材料の適否を検査し、工事を監督していたことは前記の通りであるが、その土木工事が萬甲建設の施行する工事である事を示す看板などはなく、却って作業員は大末組のヘルメットをかぶり、一見するとその工事は大末組の施行している工事のような外観を呈していた。

以上の事実が認められる。

右認定に反する<証拠>は措信できない。なおこれら証人中には「甲第五号証の一ないし一一九の納品受領書の荷受人欄は検収当時空欄であった」と証言するものもあるが、若し荷受人欄が空欄であれば、サインの位置はその中央部になされるのが自然であると考えられるのに、サインはすべてその端または数量欄になされていることに鑑み、前記の通り検収当時既に「大末組」の記載はなされていたものと推認するのが相当である。

してみると原告が当初土木工事施行者を被告と誤解したのは無理からぬものがあると考えられるところ、訴外萬甲建設こと石山政夫はこれに乗じ被告名義を用いて電話で注文を出し、被告名義で納品を受領していたものであり、被告の現場主任中村和郎以下の従業員は、これを知って黙認していたばかりでなく、同人ら及び八木土木課長は原告の誤信を強める言動をしていたと言うほかはないのであって、原告が注文主を被告と誤信したことについては重大な過失があったと むべき証拠はない。

被告は原告が訴外萬甲建設から金二〇万円の内入れ弁済を受けていることは、注文主が同訴外人であることを知っていた証左であると主張するけれども、証人石山政夫の証言によれば、本件資材の納入が了った後、原告は被告にその代金を請求していたが、被告が買主は訴外萬甲建設であると言って、これに応じないので、同訴外人に対し請求し、金二〇万円の弁済をうけたものであることが判るから、前認定を動かすに足りない。

してみれば被告は、商法第二三条の法意に照らし、本件売買代金支払の責に任ずべきである。

よって金一一五万九九二〇円と前記甲第三号証の一ないし四により被告に右代金の請求をした日の額であると認められる昭和四〇年七月六日以降完済迄年六分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の請求は理由である。

(裁判官 室伏壮一郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例